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「あの時、あげれば良かった」。今でも後悔している転校した友達に渡せなかったもの。

2018年8月31日の東京新聞夕刊の連載、
「静寂と集中 朝の読書30年」。
その44回目は。最終回で、
《終わりに 先生、旧友との思い出》。

筆者・岩岡千景さんの、今春就職した
長女のエピソードが書かれています。

その娘さんが小学生の時、
朝の読書の時間があったそう。

三年か四年の時に、
朝の読書のために持っていった
「ガラスのうさぎ」が
返ってこなかったとのこと。

友達に貸したのですが、
数週間が過ぎた頃、友達が
岩岡さんのお宅まで、
その本を返しにきたのでした。

その子の両親が離婚することになり、
次の日には、母方の実家がある
愛知県に引っ越してしまうと、
ため息をついたと。

岩岡さんは帰宅後、この話を聞いて、
娘さんに、
《「お餞別に、本あげればよかったのに」》
と告げたら、娘さんは、
《「ママ、もっと早く言ってくれたら
よかったのに」と言って泣いた》。

そして
《巣立っていく娘と、そんな思い出を振り返り
「あの子、どうしているかな」と話した》そうです。

同じような思い出があります。

自分の場合は本ではなく、別のある物ですが。

小学校のまさに3年生の時の話です。

その子は、2年の時にお母さんと
二人で、引っ越してきました。

お母さんは、わが家の近くのお店で、
その子と一緒に、住み込みで働いていました。
住まいは店の裏手にある小さな二間。

2年そして3年の時も、同じクラスでは
なかったのですが、家が近かったこともあり、
その子と仲良くなりました。

わが家に来ることはなかったのですが、
その子の住まいには、何度も通ったものです。

その子は、自分とは異なり、
歌や絵が大好きで得意。

新しく出た歌謡曲を誰よりも先に覚え、
それは上手に歌ったり、人気漫画の
キャラクターを模写したりといった具合です。

そんなある日、色鉛筆の話に。

学校では6色の色鉛筆が指定のもので、
美術・図工の授業がある時は、
それを持っていきました。

二人ともそれは持っていました。

わが家には36色の色鉛筆もありました。

親が買ったものではなく、
親戚の誰かが、入学祝いに
くれたものだと思います。

ところが、絵心がほとんどない
自分にとっては無用の長物。

一二度、それも何色か使ったものの、
後はほとんどまっさら状態。

それを友達に話したところ、
「見てみたい」というので、
友達の家に持っていったのです。

その子はすごく喜び、「使ってもいい」
と許可を求めました。

「いいよ」と答えると、その色鉛筆で、
早速、様々な花、動物、魚、人形、景色などを、
次々と色鮮やかに描いたのでした。

夕飯時分になったので、家に帰ろうとした時、
「自分は使わないから、貸してあげる」と
告げた時の嬉しそうな友達の顔。

ところがそれから数ヶ月して、
かなり夜更けになって、
その子が、わが家にやってきたのです。

手にはあの36色の色鉛筆を持っています。

「これから引っ越すことになったから、
借りてた色鉛筆、返すね」。

こんな夜から引っ越し。
まだ小さかったので、
深い事情は分かりませんでしたが、
通常ではない事が起こっているなと
感じました。

差し出した色鉛筆の箱の上には、
葉書大の大きさの封筒がありました。

「自分は使わないから、あげるよ」

そう出かかったのですが、
なぜか言えませんでした。

「引っ越しちゃうんだ。
落ち着いたら手紙、送って」。

そんなありきたりな事を言った
と記憶しています。

友達は、暗い中、
背中を落として帰って行きました。

家に入って、居間にいた両親に
その話をすると、二人から、
「どうせあんたはそれ使わないんだから、
あげたらよかったのにね」と。

自分もやっぱりそうだなと思い返し、
今からでも間に合うかもと、
服を着替え、返してもらったばかりの
色鉛筆を持ち、すぐ友達の家に。

表のお店はしまっていました。

すぐに裏手に回りましたが真っ暗。
人がいる気配はありません。

しばらくうろうろしたのですが、
あきらめて、帰宅しました。

その子とはそれっきり。

それから何年か経って、
自分の家より、さらにその子の
近くに住んでいた同級生が、
事情を教えてくれました。

離れて暮らしていた友達のお父さんが、
二人の居場所を見つけ、店に連絡をしてきた。
そのお父さんは、大きな借金も。

深夜の引っ越しは、お父さんから
逃れるためでした。

自分にも、他の同級生の誰にも、
その子からは何の連絡もありません。

ただ風の噂で、親子は関西方面に逃げたと。

今でも渡しそびれた36色の色鉛筆は、
物置となっているごちゃごちゃの
部屋にあります。

やはりあれから色鉛筆は
一度も使わないままです。

それを見る度に、
「渡してあげたかった」
という後悔の念と、
友達の今が頭の中を巡ります。

色鉛筆を返してもらった時に
上にあった封筒。

中には。「仲良くしてくれてありがとう」
という感謝の文字と、自分が好きだった
熱帯魚のグッピーが、それぞれ多くの色を
使ってかかれていました。

こちらは、無くしてしまいました。

相変わらず、歌が好きで、
絵も描いているといいなー。

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